2010年10月11日

「善」・「悪」の二項対立の言説の誤り。

 今日は、ここ最近の事件を追ったエントリーとは変わり、普段から私が内心考えている、「善・悪、二項対立論」の誤謬と危険性を、最近のはやりの「陰謀論」批判と絡めながら論じてみたい。

 「善・悪、二項対立論」とは、簡単に言うと、世の中の現象や主義主張を、ある説を「善」とすると、他の言説を全て「悪」と断定する論法のことである。
 元々は、古代宗教のゾロアスター教やマニ教において、世界を「善の神」=「光」。「悪の神」=「闇」と捉えた世界観が有名である。

 世界は、「光と闇」、「昼と夜」、「太陽と月」、「男と女」などのように、二項対立(必ずしも「対立」とは限らないが)の考え方は、古来、人間がなじみやすく、わかりやすい物事の捉え方であったのは事実だと思う。

 しかし、さまざまな思想や物事の考え方があふれる現代社会において。また、物事が全てを単純に「善・悪」に分けられない複雑になった世の中において、未だに「善・悪、二項対立論」に終始する言説が、特にネット上において散見される。そして、それらの多くは「陰謀論」であり、世の中を、「陰謀をたくらむ悪者」と、「陰謀に対抗する=自分たち」と言う形の理屈を持って全てを断じる論法に、大いに疑問を持ち、その誤謬を指摘したい。

 最近において、世界的にも問題となっている「二項対立論」は、「戦争屋・ブッシュ」とアメリカ人からまで呼ばれて、最後は史上最悪の支持率のまま大統領を辞めた、ジョージ・W・ブッシュが、イラク・アフガンでの「テロとの戦い」で展開した、「キリスト教=善。イスラム教=悪。」っと言う、二項対立論であった。この、世界を単純化した劣悪な思想は、未だにアメリカにおいて、コーラン焼却や、モスク建設反対運動などに影響を及ぼしている。

 少し脇道にそれるが、古代宗教の多くは、前述のように、「善・悪二項対立」的な物が多かった。その中でキリスト教は、本来、「神と我」の関係を重視する、唯一神のみを崇拝する「一元論」であり、稀有な思想であった。

 元々、古代宗教の名残を残すユダヤ教と、中世以降に盛んになった神学論争における「悪魔」の創作の点以外では、キリストの言葉とされる「新約聖書」では、世の中に幸福をもたらすのも、災厄をもたらすのも、全て同じ「ヤハウェ」の神、ただ1人であると言う思想であった。

 しかし、人間は、上述のように「二項対立」に馴染み易い存在であり、現代においては、キリスト教においても、神と悪魔の「善・悪二項対立論」を安易に取る言説がまかり通っている。その最悪の現れの一つが、「バカ・ブッシュ」の、アメリカ(キリスト教)の絶対善=イスラム教国絶対悪、という考え方であった。

 宗教論を長々と述べたが、私の今日のエントリーの主眼はそこには無い。

 具体的に言うと、現在話題となっている、小沢・民主党元代表の検察審査会における強制起訴の決定にまつわる事件について、主に、植草一秀、元・経済学者が、そのブログ「知られざる真実」で展開している、「善・悪二項対立論」を批判したいのである。

 植草(以下敬称略)に言わせると、世の中を「善=小沢」、「悪=菅直人」と言う図式で説明し、それを、「官僚支配脱却=善」「官僚支配=悪」。「真実を知る自分たち=善」、「マスコミによる大衆操作と、それに騙される愚民=悪」。などと言う図式に置き換えて、狂気のごとくに、自分たちの正当性と、それ以外の意見を持つ人々を悪と断罪する論法を、頻繁に用いている。

 そのベースには、自民党政権時代から植草が用いてきた。また、副島隆彦や田中宇などのような、「陰謀論者」による、「真実を知る自分たち=善」、「世界支配者(主にアメリカやユダヤ)=悪」。と言う、単純かつ、論証も証明もされていない「二項対立論」を、現在の日本における政治にあてはめたものが植草だと言えよう。

 この「二項対立」による、善悪の区別と、その中の善に自らを置く論法の危うさは、政策や具体的な物事への対処法を排除し、ただひたすら、自分たち以外の「悪」を罵倒することによって、卑小な自我の自己満足を得ていると言うことに尽き、何も生み出さず、ただ社会に混乱と不調和・対立の種をばらまいているだけになるのである。

 いつも通りくどくなっているが、今しばらくご容赦願いたい。

 具体的に述べたほうがわかりやすいだろう。
 植草とその信奉者たちが、今使っている論法は、「悪徳ペンタゴン」=政(菅政権)、官僚、財界、『マスゴミ』、アメリカ、の陰謀により、日本の救世主、小沢一郎が、陥れられている、と言う物である。
 この点についての誤りは以前にも指摘したが、繰り返すと、まず、「悪徳ペンタゴン」と言う物そのものが、植草が、先んずる副島らの陰謀論を取りこんで「創作」した、論拠も証明もされていない、架空の存在なのである。しかも、その中の「政=菅直人」と言うことは、植草自身のブログを見ても理由が見えない。ただ、民主党代表選で、小沢の対立候補で、下馬評を覆して逆転勝利した菅直人を、誹謗中傷するために用いているにすぎない論法である。

 このネット上の一部の卑小な言説の何が問題かと言うと、彼らは、小沢強制起訴において、起訴を議決した検察審査会(一般の有権者からの抽選と面談で選出される)のメンバーを「『マスゴミ』
に洗脳された愚民」と断言してはばからず、自分たち小沢支持者こそが真の善なる国民であり、そうでない者は、「悪徳ペンタゴン」の手先、またはそれに騙されるような愚民。と断言している点である。

 以前にも述べたが、私は法学の徒であった。そのため、「司法に対する信頼」が損なわれることは、国家の危機を意味すると考えている。確かに、大阪地検特捜における証拠捏造や隠滅事件が起きたばかりであり、それもまた、司法の危機を意味するが、植草の検察審査会批判もまた、同様に、司法への信頼を損ねる結果しかもたらさない、非常に危うい論法なのである。

 最近では、植草一派のブログでの言説は、ひたすら、他者を貶める根拠の薄弱な、善・悪二元論で構成され、小沢を支持する自分たちだけが真の正義であり、それ以外の世の中の人々は、皆、悪であるか、買収されたり騙された愚民ばかりである、っと断定することに費やされている。

 既にお気づきであろうが、私のこの駄文もまた、あまり世の中に意味の無い、「劣悪な言論への批判」に過ぎない。
 しかし問題は、その「劣悪な言論」が、ネット上ではある程度の力を持っていることである。
 そして、これも以前に述べたが、「小沢絶対正義・無謬論」は、「英雄崇拝」に近く(私は小沢を英雄だなどとは思っていないが)、それは、第二次世界大戦前のドイツでのナチスのヒトラー、イタリアでのファシスト党のムッソリーニが台頭してきた時の、両国の国民の英雄願望に似た危険性があることを指摘したいのである。

 「陰謀論」とは、世の中の理(ことわり)を、「陰謀」で説明して、それ以降、なんら検証すること無く、世の中あらゆる事象を、善と悪にわけて考える、単純で稚拙な「思考停止」の論法である。
 植草一派は、今、それにどっぷりと嵌っている。結果、菅政権非難にとどまらず、検察、裁判所もまた「悪」として非難され、政権党である民主党もまた、菅直人の支配下として非難されている以上、日本における「三権分立」の「三権」の全てが、「悪」であると断じており、これは社会不安をあおるとともに、「英雄待望」の無思考の幻想を招き、万一それが現実化した場合、民主国家としての日本の崩壊をも意味するのである。

 まぁ、植草一派ごときの言説がそこまで影響力が無いことは、民主党代表選で、党員・サポーター票の多くが、菅直人支持で会った結果を見れば、「小沢英雄待望論」を取る国民は少ないと思われ、国民のバランス感覚は正常であると私は考える。

 ただ、ここ10年余りの間に、「陰謀論者」は勢力を拡大しており、この「善・悪二項対立」の論法に嵌ることの危険性を、ここで指摘しておきたいのである。

 つまらない論につきあわせてしまって誠に申し訳ないが、これを読んだ方が、心の片隅にでも、このような考え方を留めてくだされば幸いである。

 以上
posted by ジャッカル at 04:36| Comment(0) | TrackBack(8) | 思想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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